ハスラー(The Hustler)
ウォルター・S・テヴィス
プレイボーイ傑作集収録 尾坂力 訳 荒地出版社
ミステリマガジン280掲載 田村義進 訳 早川書房

 刑務所を出所した元ビリヤード世界チャンピオンのビック・サム・ウィリス(エディではない)が、出所し髪を赤く染めて身元を隠し暗黒街の顔役ルイスビル・ファッツと14−1で勝負する。途中でサムの正体がバレ、勝負には勝つが、その後ファッツの手下に拉致されてしまう。短編小説。
 プレイボーイ傑作集もミステリマガジンも同じ作品。ただ訳者が違うだけ。個人的には田村義進訳の方が解りやすいかな。
サムもファッツの駆け引きが圧巻。最初はお互いに手加減して突いたり、セーフティの応酬、最後サムが一気に125点を突き上げたりとビリヤードの好きな我々にはたまらない作品です。
ハスラー2 (The Clolor Of Money) 
ウォルター・テヴィス 沢川 進 訳 角川文庫

 ミネソタ・ファッツとの死闘から20年。伝説のハスラー、ファースト・エディは妻に逃げられ、自分の撞球店も人手に渡ったため、ミネソタ・ファッツと組んで有線放送のエキシビジョンを始めるがもはや昔の腕はなく、また14−1も時代遅れのゲームとなっていた。エイトボールやナインボールが主流の時代なのだ。
やがてミネソタ・ファッツも亡くなり、エディは新しい恋人アラベラと民芸画廊の店を始めるが、ストーカーの放火にあってしまう。
ファースト・エディはナインボールのトーナメントでカムバックする。
 ★映画「ハスラー2」とは内容が全然違うため、映画のイメージで読んだ人はがっかりするかも。
ビンセントやカルメンは登場しないし、内容もちょっと地味。まぁこれはこれで面白いんですけどね。
アール・ボーチャードというどこかで聞いたような名前の選手も登場。
道頓堀川
宮本 輝
新潮文庫、角川文庫 他

 道頓堀川の喫茶店リバーのマスターと彼をとりまく道頓堀川界隈の人たちの物語。
喫茶店リバーのマスター武内鉄男は戦後ハスラーを生業としていたが、今では足を洗い邦彦という天涯孤独の青年に店を手伝ってもらっていた。武内鉄男の一人息子政夫はハスラーを目指し鉄男と衝突する毎日だった。
 ★映画の「道頓堀川」と違いスリークッション(と言うより映画がポケットに変えたわけだけど)がメイン。
プール・バーで待っている (友よ、もう会うこともないだろう)
喜多嶋 隆 光文社

 ロス・アンジェルス。リトル・トーキョーに住む日系人・卓(タック)はマフィアのボスでダウンタウンのビリヤードチャンピオンでもある”黒豚サンチェス”に8ボールで勝ったのを機会に強敵を求め旅に出た。
メキシコの”山猫のラモン”、ニュー・プロヴィデンス島の”カリブの狐”、グアムの”撃墜王”らと激戦を繰り広げ、また多くの人と出会い、別れて卓は大人になっていく。
光文社文庫本化のとき、「友よ、もう会うこともないだろう」に改題。
 ★ビリヤード台の中央にはしるメキシコとアメリカの国境線。メキシコの”山猫のラモン”はメキシコ側から出ることなく幾多のハスラーをやぶってきた。アメリカの警察はラモンをアメリカ側におびき出して逮捕したい。そこで卓に白羽の矢がたった。って無理ないこの設定?
また初心者の女の子にビリヤードを教える卓。熟れたトマトや卵を突かせストロークの練習をする。ってしないしないこんな練習(笑)
ライク・ア・ローリング・ストーンだって?(ロンサム・カウボーイに収録 )
片岡 義男
角川文庫

  「ロンサム・カウボーイ」はアメリカのさまざまな職業の男たちの14の短編集。
その第4話「ライク・ア・ローリング・ストーンだって?」(p.64)は流れハスラーを題材にした物語。
流れハスラージェファスンは9歳と11ヶ月のときキューを持って家出し、放浪の人生となった。
そろそろ40歳になろうとする今もアメリカ中の玉突き場をめぐり町から町へ渡り歩いてる。

台風 (雪が降るに収録)
藤原 伊織
講談社

 主人公吉井卓也の会社の後輩西村が彼の上司及川を刺した。毎日及川から受けるイジメによって西村の神経が異常をきたしていたためである。警察からの帰り、吉井は西村がビリヤードが得意だったことを聞く。・・・ビリヤード。吉井の実家は玉突き屋だった。
 ・・・吉井卓也が13歳だった時、彼の実家の玉突き屋に一人の青年がちょくちょく来店するようになった。
彼 兵藤泉が来るたび吉井は一緒に玉を撞くようになり、また兵藤と店の従業員の明子が恋仲になっていった。
ある台風の日、常連客のひとりが明子にセクハラをしたため、兵藤と常連客早坂のビリヤード勝負が始まった・・・
 社会的不適合でビリヤードを心の拠り所にしている西村。
もしあの時・・・していれば 後悔と忸怩の思いにさいなまれる吉井。
兵藤と明子の夢と挫折。正直いって身につまされる思いがしました。ある意味この小説の登場人物は鏡に写った自分なのかもしれない。
浪速の女ハスラー 玉撞き屋の千代さん
南川 泰三
集英社

 南大阪阿倍野の老舗ビリヤード場保名倶楽部(やすなくらぶ)のマダム南川千代さんの一代記。
度重なる災難の中、姑や夫子供たちの生活を守ってきた千代さん。保名倶楽部は千代さんの歴史でもあるし、ビリヤードの昭和史でもある。
 ビリヤード場のマダムが主人公(ノンフィクション)だから当然ビリヤード関連の用語が出てくるが、他のビリヤード小説と比べ物にならないぐらい正確で詳しい。作者も良く調べたなぁとおもったら作者南川泰三氏は南川千代さんのご子息であった。
氏は子供の時から店に出て、ゲーム取り(お客のゲームの点数を数える)をされていたのである。道理で・・・
昭和のビリヤ−ド史の勉強にはもってこいの小説。
玉突屋
正宗白鳥
筑摩書房他

 明治41年発表の短編!深夜まで玉を撞いている男たちとゲーム取りの少年(眠いのを我慢している)の話。
 「玉撞き屋の千代さん」にちょことこの小説のことが出てたので調べてみたらありました。
この小説でわかる時代考証。
1.登場人物はワツフル(ワッフル?)を食べながら玉を撞いている。こんな昔からあったのねワツフル。
2.夜中12時過ぎても玉を撞いている。昔から好きな人は好きなのねぇ〜
ポケット
竹内 真

 第六回舟橋聖一顕彰青年文学賞入賞作品
大学で知り合った吉岡と「ポケット」でビリヤード三昧の日々。
「僕」は吉岡に勝てなかったが、吉岡も師匠の今井さんには勝ったことがなかった。
そんなある日、吉岡が交通事故で亡くなってしまう。通夜の翌日「僕」は無意識のうち「ポケット」に・・・
やがて来た吉岡の師匠だった今井さんと二人でナインボールを始める。
 短編ながら味のある作品。
今のところは彦根市発行の受賞作品集でしか読めないじゃないかな・・・短編集に収録される日を待つ。
スヌーク (孤立無援の名誉に収録)
海老沢 泰久
講談社文庫
 ちょっと珍しいスヌーカーの短編小説。三年ぶりに選手権に出場する村田伸郎は初戦でチャンピオン佐伯雄一と当ることになった。
19歳の天才佐伯に対し、47歳の村田がどう戦うのか。
 シュート力では全く敵わない村田が選んだ戦法はスヌーク(セフティー)を多用して佐伯の精神リズムを狂わせることだった。
しかしそれは同時に佐伯の可憐なプレーを期待している観客すべてを敵にまわすことになる・・・
勝つために、勝つことだけのために、なりふり構わず戦う男の悲哀。
スポーツ物を得意とする作者だけにゲーム描写は流石に上手い。

キス未満おことわり
馬場 ゆみ
講談社X文庫

 私、伊藤舞子。高校一年生。勉強一筋の弟がなんとビリヤード場で補導!どうも不良とビリヤードにはまっているみたい。
弟をビリヤードから引き戻すため、あえてビリヤードを覚えるわ。弟の師匠の工藤龍一見てらっしゃい!
と、まぁこんなわけでビリヤードを習う舞子ちゃんでしたが、木乃伊取が木乃伊になってビリヤードにはまり、龍一にメロメロ。
ビリヤード選手権ではもう龍一を応援しちゃって、抱きついちゃって、泣いちゃって。嗚呼純粋なる少女の涙也!
 女子中校生向けの講談社X文庫。同じ文庫の「素敵な彼と愛・舞・美」に比べ、ビリヤードの比重はこちらの方が断然大。
よってこちらはビリヤード小説でもいいかなっと。でもやはり少女向けなんですけどね。1991年の作品。

夜の撞球場(ビリヤード) (夜の東京に収録)
川村古洗
文久社

 大正八年の古〜い短編集。夜の東京の情景をテーマに色々な作家の作品が集められている。田山花袋・泉鏡花・高濱虚子・北原白秋らの短編にとともに川村古洗の「夜の撞球場(ビリヤード)」「夜のタクシー」「廓の灯」が掲載されている。
・・・実は私不勉強で川村古洗という作家知らんのですよ。古い作品なので著作権の関係もあって調べたのですが、判らんでした。
 「私」が夜、友人Aと日吉町(現在の銀座八丁目)の日勝亭へ行った時の話。ノンフィクションか?ちなみに「私」持点百、友人Aは五十。
この小説によると当時の日勝亭は一階に四台二階にボークライン台二台。当時としては大型店。
台が空くまでの間の出来事で、常連の秋(あー)さんがバラ幸と百点の撞き切りを賭け、バラ幸が負けて罰ゲームとして台の下を潜ったりしているが、このバラ幸 本名福山幸太郎、帝国ホテルの撞球場にも勤め明治二十七、八頃は当時の三名手として数えられたほどの選手。バラ玉を得意とし、そこからバラ幸の渾名がついた。彼が日勝亭に入社していたのは大正三年から七年。二階にボークライン台が置かれたのは六年秋。だから本作は六年から七年の間に書かれた可能性が高い。
それ以外も「私」と友人Aの会話の中に「鈴亀選手」(鈴木亀吉 日勝亭出身で1925年世界選手権にも出場)や「田村幾次郎」(当時の日本最強選手)、神田の淡路亭(御存知!)の名前がでてくる。当時の撞球場のことが判る貴重な短編小説です。

一本の道さえあれば・・・(P.82 スリークッションの通過儀礼)
ロバート・ジェームズ・ウォラー
村松 潔訳 文春文庫

  「マディソン郡の橋」の作者のエッセイ集。
1950年代アイオワ州 11歳の少年だったロバート・ジェームズ・ウォラー氏が、父に連れられていったクラブで見かけたビリヤードの名手サミー・パタースンに憧れ、ビリヤードにのめり込んでいった様子が書かれている。
 ★著者はビリヤードとプールの違いやビリヤードのルール(おそらく3つ玉)について詳しく述べているが、それもそのはず。
著者はなんと14歳の頃500点ゲームでサミーと対戦し、勝っているのだ。ロバート・ジェームズ・ウォラー先生、このときの体験を元にビリヤード小説書いてくれませんかねぇ。
− ビリヤードは物理学と、幾何学と、構成と、技術と、策略のゲームなのである。−
二十歳の火影 (P.118 「道頓堀川」のこと)
宮本 輝
講談社文庫

 小説「道頓堀川」のモデルについてのエッセイ。
名も知らず、行きずりの、ガラス越しに見た初老の玉突き師をモデルに小説「道頓堀川」は書かれた。
命の器 (P.159 「道頓堀川」の映画化)
宮本 輝
講談社文庫

「道頓堀川」の映画化と原作と「道頓堀川」のモデルについてのエッセイ。
そこに僕はいた (P.179 夢の中へ)
辻 仁成
新潮文庫

 辻 仁成氏のエッセイ集。辻 仁成氏は父の仕事の都合で転校が多く、中学3年から4年間函館で過ごすことになる。
卒業式の帰り、クラスメートのシンキとビリヤード場に行き、4つ玉をしながらお互い将来のことを語り合った。青春の1ページである。
それから10数年後、シンキと東京で会った。歳月は
 ★辻 仁成氏はかなり高校生の時、ビリヤード場に入り浸っていたみたい。函館物語(集英社文庫)によると、この店は十字街の裏路地にあるビリヤード亀田屋という店。
ガラスの天井 (P.142 誰がケルアックを殺したか)
辻 仁成
集英社文庫

 辻 仁成氏のエッセイ集。十字街のビリヤード場に入り浸っていた頃、ジャック・ケルアックの「路上」という小説を常連客から手渡された。氏はこの本によってカルチャーショックを受け、ビリヤード場にたむろする不良達と絶交し始めた。
  ★ビリヤードやめちゃだめだよぅ。
疾走の夏−アメリカン・ブルーハイウェイ− (P.76 ビリヤード酒場)
北方 謙三
新潮文庫

 北方謙三先生のシカゴからニューオリンズまでの紀行。
途中ミズリー州の酒場で、地元の大男とエイト・ボールをする。
話は著者の15年前の遡る。当時著者は賭けビリヤードに明け暮れ、時にはお金のない女の子に躰で払わせようとしたこともあった。
また、ビリヤード場でやくざのオッサンと喧嘩になりボコボコにされ警察官に助けられたこともあった。
ミズリー州の勝負は先生の圧勝。その後先生は酒場の女主人と遊びで撞いた。
日付変更線 (P.43 喧嘩控)
北方 謙三
幻冬舎文庫

ビリヤード場でのやくざのオッサンと喧嘩の話。
また、(P.221 書く)では渋谷の酒場のママと終電後朝までビリヤードをやっていた頃のことが書かれている。
風待ちの港で (P.123 癒し)
北方 謙三
集英社

 ★ハードボイルド作家北方謙三先生がビリヤード場でやくざのオッサンと喧嘩になり、最後はオッサンにボコボコにされてしまった。
内容的には「疾走の夏」のビリヤード酒場や「日付変更線」喧嘩控と同じ。
メイン・テーマ (対談集 P.253 小林伸明 ビリヤードと文学と)
宮本 輝
文藝春秋

 宮本輝と我らが小林伸明先生の対談。「第三文明」に掲載
内容は外国の選手の性格やクールマン、世界選手権優勝の時のことなど。
クールマン、肉を1キロも食べるそうです。
ワニ眼の朝ばしり (P.197 紳士の国のイジワルな遊び、スヌーカーとは)
沢野ひとし
角川文庫

 イラストレーター沢野ひとしが30種類のスポーツにチャレンジするエッセイ集。元々は雑誌「ターザン」の連載企画。
氏が20種目にチャレンジするのはスヌーカー。女性と一緒に西麻布のスヌーカー・バーに行き、インストラクターの吉田博氏に教えてもらう。
 西麻布のスヌーカー・バー私も一度行ったことあるなぁ。たしか「ハスラー2」のブームの頃だったか。料金がバカ高かったことだけ覚えてます。
1977〜8年頃にスヌーカーオンリーの店。思えば時代が早すぎましたね・・・
10セントの意識革命 (P.275 ポケット・ビリヤードはボウリングなんかよりずっと面白い 他)
片岡 義男
晶文社

 アメリカに行くと必ずビリヤードの本を買う片岡義男先生のエッセイ集。
アメリカでのハスラーと対戦した時の体験やネッド・ポルスキーの「ハスラー・ビート、その他」をテキストに彼らのの手口や特徴を紹介する。
 外馬の金を巻き上げる方法。
カモも賭け金を上げていく方法。
挙句の果て胴元の金を巻き上げる方法。いやはや彼らは詐欺師だわ。
マーク・トウェイン自伝(P.174 第二十六章 楽しむためのボーリングと玉突き)
マーク・トウェイン
勝浦吉雄 訳 筑摩書房

 「トム・ソーヤの冒険」で有名なマーク・トウェインの長〜い自伝。初めて英国式ビリヤードをしたとき、なんと1イニングで15個の玉を落としてしまい、相手が不機嫌になった話や、傷だらけの玉、ボロボロの台でやるゲームの醍醐味などが語られている。
 自伝の中で1906年(註訳では1905年だがビリヤード本の記録から調べてみると1906年ではないか)のニュヨークで行われた試合を見たことが語られているが、この時代はアメリカンセリーの発達により三つ玉からボークラインに移った時代。
サットンが18イニングで500点とって優勝してます。