昔々ある山の村におじいさんとおばあさんが住んでいました。 ある日、おじいさんが山道を歩いていると一匹の象が罠にはさまれてもがいていました。 「パォ〜パォ〜」 象は悲しそうに鳴いてたすけを求めています。 おじいさん「これはこれは可哀想だ。助けてあげよう」 やさしいおじいさんは罠ははずし逃がしてあげました。 象は喜び、山へと帰っていきました。 家にかえったおじいさんは「今日は象を助けてあげたよ」とおばあさんに話すと、 おばあさんも「まぁ、それはいいことをなさいましたねぇ」と喜んでくれました。 その夜、戸を叩く音が・・ 「もし、もし」 おじいさんが戸を開けてみると、ちょっと小太りで足の太い娘が立っていました。 「わたしはおぞうと申します。旅の途中で道に迷ってしまいました。 どうか今晩泊めていただけないでしょうか」 「ああ、かまいませんよ。なにもありませんがどうぞお上がり下さい」 やさしいふたりはこの娘を泊めてあげました。 次の日、娘はおじいさんとおばあさんに 「おふたりに泊めていただいたお礼を差し上げたいと思います。ただぜったいに部屋を覗かないでくださいまし」 といって奥の部屋に入っていきました。 部屋の中からは「チュイ〜ン、チュイ〜ン」となにかを削る音が聞こえます。 おじいさんたちが不思議に思っていると、娘が歯を押さえながら出てきました。 「おぞうさんや。どうしたのかい?」 「おじいさん。これを街で売ってきてくださいまし」 娘が懐から出したのは4個の象牙のビリヤードの玉でした。 おじいさんが街に出てみると折しも世間はビリヤードブーム。 「そうだ。わしが昔通っていたビリヤード場に持っていってみよう」 そうです。このおじいさん、昔は結構ビリヤード場でブイブイいわせていたのです。 おばあさん(当時まだ生娘)をナンパしたのもビリヤード場でした。 ビリヤード場に持っていくと店長が「これは見事な玉だ。ウチで買いましょう」 と簡単に売れてしまいました。 喜んだおじいさんは思わずそのお金でカスタムキューを買ってしまいました。 家に帰ると面白くないのはおばあさん。 「わたしもキューがほしいわな」 「う〜ん、というわけでまた頼むよ。おぞうさん」とおじいさん。 「はい。でもぜったいに部屋は覗かないでくださいまし」 「チュイ〜ン、チュイ〜ン」 娘が歯を押さえながら出てきて懐から象牙の玉を。 ふたたび街で玉を売り、おばあさんのキューを買うと、飾ってあるキューケースが欲しくなりました。 「というわけでもう一丁!」 「はい。でも部屋はぜったいに(以下略)」 「チュイ〜ン、チュイ〜ン」 「わたしもキューケースが欲しいわい」とおばあさん。 「チュイ〜ン、チュイ〜ン」 人間の欲望というものは限りがないものです。 おじいさんもおばあさんもこんどは家にビリヤード台が欲しくなりました。 「すまないねぇ。また頼むよ。おぞうさん」 おぞうさんはなにも言いません。 「ん?どうしたんだい?おぞうさん」 おぞうさん 「ふみましぇん。もう歯が無ふなりまふた」 |